運送業は将来なくなる？トラックドライバー不足と自動運転の影響を解説

近年、運送業界はECサイトの急成長による宅配便取扱量の増加や、ドライバー不足など、様々な課題に直面しています。一方で、自動運転やドローンなどの新技術の登場は、物流の未来を大きく変える可能性を秘めています。こうした変革の時代に、トラックドライバーはどのようなキャリアを描いていけばよいのでしょうか。本記事では、運送業界の現状と将来展望、そしてドライバーのキャリア形成について探っていきます。

運送業界の現状と課題

運送業界を取り巻く環境の変化

運送業界は、ECサイトの台頭により大きな変化に直面しています。ネット通販の普及に伴い、宅配便の取扱個数は年々増加の一途をたどっており、2015年には10年前の2005年と比べて約8億個も増加しました。今後もこの傾向は続くと予想され、2027年の荷物量は現在の1.5倍に達すると言われています。

荷物量の増加は、ドライバーの労働時間の長時間化につながっています。再配達の増加も深刻な問題で、不在のために何度も同じ家を訪問しなければならず、非効率的です。こうした状況を改善するため、運送各社は様々な取り組みを進めていますが、抜本的な解決にはまだ時間がかかりそうです。

深刻化するトラックドライバー不足

運送業界がこれだけ成長を続ける一方で、トラックドライバーの不足が深刻化しています。不足の要因の一つは、長時間労働によるドライバー離れです。国が進める働き方改革の影響で、これまで以上に労働時間の管理が厳格化されたことから、一人のドライバーが運べる荷物量が減少しています。

またEC市場の拡大に伴う長時間労働の常態化や、ドライバーの高齢化と若手採用の難しさなどが挙げられます。ドライバーは40代から50代の中高年層が全体の半数近くを占めている一方、若手の採用が思うように進んでいません。今後、ベテランドライバーの多くが引退期を迎えることを考えると、担い手不足はますます加速することが予想されます。採用の難しさなどが挙げられます。

さらに2024年から適用される残業時間の上限規制により、一人のドライバーが運べる荷物量が減ることも予想され、人手不足に拍車がかかると見られています。

2024年問題による走行距離や収入面への影響は『【2024年問題徹底解説】トラックドライバーの走行距離はどう変わる？生き残るための方法を探る』の記事で詳しく解説しております。

ドライバー不足がもたらす影響

ドライバー不足が長期化した場合、様々な影響が懸念されます。まず、人件費の高騰によって輸送コストが増加し、運送会社の経営を圧迫することが予想されます。また、荷物の配送遅延や、最悪の場合、宅配便などのサービス自体の維持が難しくなるおそれもあります。

トラック輸送は、日本の物流インフラを支える大動脈です。トラックが止まれば、スーパーの店頭から商品が消えるなど、経済活動に大きな混乱が生じかねません。ドライバー不足への対策は、運送業界だけでなく、日本経済全体の課題と言っても過言ではありません。　

運送業界は、こうした課題にどう対処していくべきなのでしょうか。AIやIoTなどのテクノロジーを活用した業務効率化や、より働きやすい職場環境の整備など、様々な解決策が求められています。

運送業の将来展望

運送業界の将来を占う上で、自動運転技術の発展とドローン配送の実用化は大きな鍵を握っています。加えて、働き方改革の進展もドライバーの働き方に変化をもたらすことが予想されます。

これらの新しい技術の登場は、ドライバーの職域にも変化をもたらします。単に運転するだけでなく、システムを管理・監督する能力や、付加価値の高いサービスを提供する力が求められるようになるでしょう。

自動運転技術がもたらす変化

自動運転技術の発展は、トラック物流の効率化と労働環境の改善に大きく貢献すると期待されています。その代表例が、隊列走行や無人運転の実現です。

隊列走行とは、複数のトラックが一定の車間距離を保ちながら連なって走行する技術で、先頭車両の運転手が他の車両を制御します。燃費の向上や渋滞の緩和につながるほか、運転手の負担軽減にも役立ちます。

さらに、将来的には完全な無人運転の実現も視野に入ります。人件費の大幅な削減が可能になるほか、人的ミスに起因する事故のリスクも低減できます。ただし、インフラの整備や社会的な受容など、克服すべき課題は少なくありません。

ドローン配送の可能性

ドローンは、物流分野でも活用が広がりつつあります。特に、ラストワンマイル配送と呼ばれる、配送拠点から顧客への最終配送を担う場面では、大きな威力を発揮すると期待されています。

現在は、主に山間部など交通の便が悪い地域で実証実験が行われていますが、技術の進歩と規制の緩和によって、都市部でのサービス展開も現実味を帯びてきました。渋滞や駐車スペース不足に悩む都市部において、ドローンは配送効率を大きく改善する可能性を秘めています。

ただし、安全性の確保や、プライバシー保護など、まだ乗り越えるべきハードルは少なくありません。官民一体となった取り組みが求められます。

トラックドライバーの働き方の変化

働き方改革関連法の施行によって、トラックドライバーの労働環境は大きく変わろうとしています。2024年4月からは、時間外労働の上限規制が適用され、年960時間の残業が原則となる予定です。

この「2024年問題」によって、ドライバー1人あたりの運送能力は低下すると見込まれています。人手不足に拍車がかかるため、運送コストの上昇などの影響も懸念されます。一方で、ドライバーにとっては、より働きやすい職場環境の実現につながる可能性もあります。

加えて、新技術の進展は、ドライバーに求められるスキルにも変化をもたらすでしょう。自動運転システムの管理・監督能力や、高度なコミュニケーション能力など、よりハイレベルな専門性が求められる時代が来るかもしれません。

トラックドライバーのキャリアを考える

自動運転やシェアリングの普及など、運送業界を取り巻く環境変化の中で、トラックドライバーのキャリアをどのように考えていくべきでしょうか。

スキルアップの必要性

運送業界におけるテクノロジーの進歩は目覚ましく、ドライバーに求められるスキルも大きく変化しています。IoTを活用した配車システムやデジタルタコグラフなど、ITツールの活用が不可欠となる中、それらを使いこなすためのデジタルリテラシーが重要になっています。

また、AIを活用した需要予測や最適ルート案内など、データ分析に基づく業務効率化も進んでいます。ドライバーには、データを読み解き、活用する力が求められるようになるでしょう。

加えて、自動運転技術の発展によって、将来的にはシステムの監視・管理能力も必要となる可能性があります。単に運転技術だけでなく、幅広い知識とスキルを身につけることが、これからのドライバーには欠かせません。

複合的な職務への対応

ドライバーの仕事は、もはや荷物を運ぶだけではありません。EC市場の拡大によって、個人宅配が増加する中、ドライバーには高品質な顧客サービスが求められるようになっています。
荷物の梱包や開梱、家具などの設置や組み立て、製品の簡単なメンテナンスなど、運転以外の付加価値サービスを提供することで、顧客満足度を高めることができます。こうした複合的な職務をこなすためには、幅広い知識と柔軟な対応力が必要です。
また、効率的な配送ルートの設計や、トラブル対応など、状況判断力や問題解決力も重要なスキルです。単に言われたことをこなすだけでなく、自ら考え、行動する主体性が問われる時代になっているのです。

転職を視野に入れた備え

深刻化する人手不足を背景に、トラックドライバーの転職市場は活発化しています。特に、大型免許保持者や、豊富な経験を持つベテランドライバーは引く手あまたです。条件の良い求人も増えており、キャリアアップのチャンスが広がっています。
ただし、転職先の選択は慎重に行う必要があります。単に給与や休日などの条件面だけでなく、会社の将来性や成長戦略、ドライバーの働き方に対する考え方なども見極めることが大切です。
また、自動運転やシェアリングなど、新しい技術やサービスに積極的に取り組んでいる企業は、将来のキャリア形成に有利だと言えるでしょう。業界の動向を常にアンテナを張って追い、自己投資を怠らないことが、転職成功の鍵を握ります。
トラックドライバーという仕事は、単なる「運転手」ではありません。物流のプロフェッショナルとして、高い専門性と広い視野を持つことが、これからのキャリア形成には欠かせないのです。

まとめ:運送業で働く意義

運送業界は今、大きな転換期を迎えています。Eコマースの拡大による宅配需要の増加、ドライバー不足、テクノロジーの進歩など、様々な課題に直面する中で、ドライバーの役割も大きく変わろうとしています。
自動運転やドローンなどの新技術は、将来的にドライバーの仕事を奪うのではないか、という不安の声もあります。しかし、これらの技術はあくまでもドライバーの業務を補完し、効率化するためのツールです。その中核にあるのは、常に人間の力なのです。
物流は、社会生活を支える重要なインフラです。安全で確実な輸送を担うドライバーの存在は、これからも決して変わることはないでしょう。加えて、高度化する業務に対応するため、より専門的な知識とスキルを備えた人材の必要性は高まる一方です。
運送業で働くということは、単に荷物を運ぶだけではありません。人々の生活を「運ぶ」という、大きな社会的責任を果たすことです。その責任の重さを自覚し、プロフェッショナルとして日々研鑽を積むことが、これからのドライバーに求められています。
変化の時代だからこそ、運送業で働く一人ひとりが、自らの仕事の意義を再認識することが大切です。ドライバーの皆さんには、物流のプロフェッショナルとして、これからも社会を「運ぶ」という誇りを胸に、活躍し続けてほしいと思います。