佐川急便は「ブラック企業」から脱却できたのか？社風改善の真相に迫る

佐川急便は長らく「ブラック企業」のレッテルを貼られてきましたが、近年は働き方改革に舵を切り、「ホワイト企業」への変革を進めています。この記事では、佐川急便の「ブラック」と呼ばれた過去から、現在の社風改革の取り組み、そして目指す未来像までを丹念に追います。また、同社でドライバーとして働くことを考えている方々へ、適性や心構えのアドバイスも提供。佐川急便の真の姿に迫ります。

そもそも「ブラック企業」とは？佐川急便がそう呼ばれる理由

「ブラック企業」の6つの定義と特徴

「ブラック企業」という言葉は、近年日本の労働問題を象徴する代名詞として定着しつつあります。その定義は必ずしも明確ではありませんが、一般的に以下のような特徴を持つ企業を指すことが多いようです。

• 若者の使い捨てを前提とした企業体質
• 過度な長時間労働、休日出勤、サービス残業の常態化
• パワハラ、セクハラなど、ハラスメントが横行している職場環境
• 労働基準法違反が常習化している
• 離職率の高さ、頻繁に労使問題が起きている
• ワンマン経営者の下、従業員を私物化するような経営が行われている

こうした特徴を複数併せ持つ企業が「ブラック企業」と呼ばれ、社会問題視されています。特に深刻なのが、過重労働による若者の健康被害や、パワハラなどの人権侵害です。働く人の尊厳が軽んじられ、はびこる違法行為。ブラック企業の撲滅は日本の労働界における喫緊の課題と言えるでしょう。

佐川急便の「ブラック企業」としての評判の歴史

佐川急便は、かねてより「ブラック企業」との評判が根強い企業の一つです。その発端は2013年に遡ります。この年、佐川急便は厚生労働省が公表した「ブラック企業リスト」に掲載されました。長時間労働や賃金未払いなど、同社の違法行為の数々が明るみに出たのです。

また佐川急便では、ドライバーに過度なノルマが課され、上司によるパワハラも横行していたと言います。いわゆる「愛のムチ」という名の体罰や暴言が、「社員大家族」「ハングリー精神」などの美名で正当化されていた時期もあったようです。軍隊式の上下関係と管理体制。その実態は、ブラック企業の特徴を色濃く映し出していました。

こうした旧弊な体質が、世間から強い非難を浴びる原因となりました。2011年には、下請け法違反で公正取引委員会から勧告を受けるなど、法令順守の姿勢も問われました。創業家一族による長期ワンマン経営の弊害も指摘されています。

「ドライバーは家族」という看板を掲げながら、その実態は「ブラック企業」そのもの。佐川急便は、そんな負のイメージを払拭できずにいました。過酷な労働環境は、ドライバー離れを招く一因にもなっていたのです。

佐川急便の4つの社風改革

佐川急便は近年、「ブラック企業」のレッテルを返上すべく、全社を挙げて働き方改革に取り組んでいます。ここではその具体的施策を4つの側面から検証します。

平均残業時間35時間→18時間に短縮

佐川急便では、全社的なデータに基づく労働時間管理を徹底しています。客観的な数値を見える化し、問題のある職場を特定。そこに経営資源を集中投下することで、効果的な業務改善を図っているのです。

また労働組合とも協議を重ね、長時間労働の抑制に取り組んでいます。トップダウンとボトムアップ、両面からのアプローチにより、働き方改革関連法の遵守を着実に進めています。

その結果、平均残業時間は着実に減少。2016年に月35時間だった水準が、2022年には18時間にまで低下しました。法令順守は当然ながら、社員の健康と安全を守る取り組みとして、大きな成果を挙げつつあります。

管理職向けの研修を強化

ブラック企業の体質を支えていたのが、過度な上下関係でした。佐川急便でも、管理職の意識改革が働き方改革の鍵を握っています。

会社は管理職向けの研修を強化。部下とのコミュニケーション重視の意識を根付かせる取り組みを続けています。職場単位の定期的な懇談会も実施。社員の本音や提案を吸い上げる仕組みを整えました。

こうした施策の積み重ねにより、上下のコミュニケーションは確実に改善しています。管理職アンケートでは「部下とのコミュニケーションを重視している」との回答が大幅に増加。風通しの良い職場環境づくりが進んでいることがうかがえます。

初任給を一律で引き上げ

まず初任給を一律で引き上げ。加えて各種手当の拡充により、総合的な処遇改善を図っています。また育児休業制度をはじめとする社内制度も拡充。仕事と家庭の両立をサポートする体制が整いつつあります。

その効果は、採用競争力の向上に如実に表れています。新卒採用の倍率は、この数年で3倍から10倍へと急上昇。優秀な人材を惹きつける求心力が高まっているのです。中途採用の応募者数も大幅に増加しており、「働きたい会社」としてのブランドが着実に浸透しつつあります。

下記の記事で給与に関して詳しく解説しています。

2024年6月19日 【徹底解説】佐川急便のドライバーの給料事情！手取りはどれくらい？

正社員雇用率増加、業務負担軽減

佐川急便の働き方改革は、ドライバーにも直接的な恩恵をもたらしています。

従来は業務委託が主流でしたが、雇用へのシフトを積極的に進めています。企業側に責任を持たせることで、ドライバーの処遇改善とキャリア形成を後押ししているのです。

また車両整備業務を内製化することで、ドライバーの業務負担を軽減。アプリを活用した効率的な配送ルート最適化の取り組みも、ドライバーの働きやすさ向上に直結しています。

こうした現場主義の働き方改革が、ドライバーの心身の健康を守り、仕事へのやりがいを高めています。「ハンドルを握る誇り」を守る取り組みは、着実に結実しつつあると言えるでしょう。

以上のように、佐川急便の社風改革は多岐にわたります。しかし目指すゴールは一つ。「社員第一主義」の経営を実践し、「働きがいのある会社」へと生まれ変わること。その決意は着実に形になりつつあります。

「ブラック企業」のレッテルは今も当てはまるのか？

かつて「ブラック企業」の代名詞とも言われた佐川急便。しかし、ここまで見てきたように、その実態は大きく変わりつつあります。ここでは、様々な角度から佐川急便の変化を評価してみたいと思います。

数々の受賞実績

佐川急便の変革の歩みは、確かな成果に結実しています。2020年、同社は「ホワイト物流」推進運動の表彰で、栄えある「経済産業大臣表彰」を受賞。物流業界をリードする働き方改革の取り組みが、高く評価されたのです。

さらに2021年には、「働きがいのある会社」ランキングで見事運輸業界1位を獲得。社員のやる気と会社の評判が、ともに高まりを見せる好循環が生まれつつあります。

加えて、この5年間で有給取得率は20%アップ。平均勤続年数も10年の大台に乗るなど、定量データにも明るい変化が表れています。「ブラック企業」のイメージは、着実に色あせつつあると言えるでしょう。

物流業界でのホワイト企業としての立ち位置を確立

佐川急便の取り組みは、同業他社と比べてもその先進性が際立っています。国土交通省が発行する「運輸業界の働き方改革事例集」でも、佐川急便の革新的な施策が数多く紹介されています。

とりわけ長時間労働の是正では、業界のトップランナーとも言える成果を上げています。「働き方改革のお手本」として、他社のベンチマークになりつつあるのです。

もちろんライバル企業も、黙って指をくわえているわけではありません。大手のヤマト運輸や日本郵便なども、負けじと働き方改革を推進。物流業界全体で「ホワイト化」への機運が高まりを見せています。その先鞭をつけたのが、他ならぬ佐川急便だったのです。かつての「ブラック企業の代名詞」が、「ホワイト物流のトップランナー」へと変貌を遂げつつある。その事実は、佐川急便の変革の本気度を物語っています。

佐川急便の取り組みは専門家に評価されている

佐川急便の取り組みは、専門家の目にどう映っているのでしょうか。

「法令遵守の徹底と全社的な取り組みにより、労働環境は着実に改善しています」。ある社会保険労務士は、佐川急便の変革をこう評価します。従業員目線に立った地道な施策の積み重ねが、確実に実を結びつつあるというのです。

一方、経営コンサルタントからは、「トップのリーダーシップによる構造改革は高く評価できる」との声も。「ただし、一過性のブームで終わらせず、『改革の日常化』を定着させることが肝要」とも指摘します。「ブラック体質」の根絶には、息の長い努力が欠かせません。

物流業界に詳しい大学教授は、「働き方改革で佐川急便が業界の模範になっている」と太鼓判を押します。「人への投資は、今後も欠かせない。加えて、自動化など生産性向上への投資にも一層力を入れるべき」との提言もありました。

こうした専門家の評価に共通するのは、「改革の本気度は認めるが、気を抜くな」というスタンス。佐川急便への期待の表れでもあります。「ホワイト企業」の定着には、改革の手綱を緩めることなく、従業員満足度を高め続ける努力が求められているのです。

佐川急便は今、「ブラック企業」の汚名を返上すべく、その歴史の転換点に立っています。「人を大切にする会社」への変革は、まだ道半ばと言えるかもしれません。しかし、その歩みは力強さを増しつつあります。

物流業界のリーディングカンパニーとして、「働きがいのある会社」のお手本となること。それが、新生・佐川急便の目指す姿なのです。次章では、そんな佐川急便で働くことを希望するドライバーの皆さんに、その適性をチェックしてもらいます。

佐川急便で働くべきかどうか

さて、ここまで佐川急便の「ホワイト化」の取り組みを見てきました。「ブラック企業」のイメージは、確実に薄れつつあると言えるでしょう。では、実際にドライバーとして佐川急便で働くことを考えている皆さんは、どんな点に注目すべきなのでしょうか。ここでは、ドライバーに求められる適性を見極めるポイントと、具体的なアドバイスを提供します。

3つの社風への適応量が重要

「佐川急便向きの人材」を考えるうえでは、同社の社風への適応力も重要な観点です。

佐川急便が求めるのは、①明るく前向きで、何より「チームワーク」を大切にする人材。②社風は「個人プレー」より「チームプレー」を重んじる傾向が強いのです。

一方で、③言うべきことははっきり言う主体性も大切にされています。上下関係をわきまえつつ、自分の意見も伝える。そんな「聞く耳と伝える口」のバランス感覚が問われます。

また、ワークライフバランスへの理解も大切。公私のメリハリをつけ、仕事とプライベートの切り替えをしっかりできること。それが、佐川急便で長く働き続けるための条件とも言えるでしょう。

さらに、品質向上のために地道な努力を厭わない人が求められます。与えられた仕事を着実にこなすだけでなく、さらなる高みを目指す意欲。そうした前向きな姿勢が、佐川急便の「人財」の条件なのです。

佐川急便で成功するための4つのポイント

では、佐川急便に入社したら、どんな心構えで仕事に臨むべきなのでしょうか。ここでは、ドライバーとして成功するための秘訣をお伝えします。

まず大切なのは、①先輩ドライバーに素直に学ぶ姿勢です。配送のコツ、荷扱いの工夫、安全運転のポイント。先輩の仕事ぶりを見て、盗んで、自分のものにしていく。そうした「現場力」の吸収が、一人前のドライバーへの近道となります。

また、②高い目標を持ち、キャリアアップを目指す意欲も重要です。ドライバーからステップアップし、管理職やオフィスワークに挑戦する道もあります。そうした様々なキャリアパスに目を向け、チャレンジする。それが、佐川急便で活躍し続けるための原動力となるのです。

③会社の方針をよく理解し、それに共感して行動することも大切。ただ言われたことをこなすだけでなく、「なぜこの方針なのか」を考える。会社と一体となって目標達成を目指すことが、「佐川急便の戦力」への第一歩なのです。

そしてドライバーに何より求められるのが、④お客様目線に立ったサービス精神。荷物を待つお客様の心情を想像し、期待に応える。プロドライバーとしての腕を磨くのはもちろん、心のこもった対応を心がけることが肝要です。

ドライバーの転職を検討する際の5つの注意点とアドバイス

最後に、他社からのドライバー経験者が、佐川急便への転職を考える際の注意点をお伝えします。

まず重要なのが、①自分の市場価値を客観的に把握すること。ドライバー経験は、給与交渉を有利に進めるための武器になります。転職サイトなどを活用し、自分の経験がどれほど評価されるのかをしっかりと見極めましょう。

また、②働き方改革や教育制度など、会社の方針をよく確認することも大切。自分のキャリアアップにつながる会社を選ぶことが、長く働き続けるための鍵となります。

加えて、配属先のエリアや運転する車種など、③自分の希望をしっかりと伝えることも重要。条件面のすり合わせは、入社前に済ませておくことが賢明です。

④転職のタイミングを見極めることも大切。ドライバー不足の今は売り手市場。その好機を逃さず、自分に合った条件を引き出すことが肝要です。

そして何より、⑤自分のライフプランに合った働き方ができる会社を選ぶこと。それが、ドライバーとしてのキャリアを長く充実したものにするための最大の秘訣と言えるでしょう。