タンクローリーの仕事はAIでなくなるのか？今後の対応策も併せて完全解説！

AIやIoTの急速な進化により、タンクローリードライバーを取り巻く環境は大きな変革期を迎えています。自動運転技術の発展は脅威ととらえがちですが、むしろチャンスと捉え、新たな価値を生み出すことが求められています。本記事では、タンクローリードライバーが直面する課題と、それを乗り越えるための戦略について詳しく解説します。

タンクローリードライバーの仕事をめぐる3つの不安要因

現状タンクローリー業界では様々な問題を抱えています。
それらを見ていきましょう。

自動運転トラックの登場で仕事が減る可能性はある

レベル4の完全自動運転トラックの開発競争が熾烈さを増す中、2025年以降の高速道路での無人運行サービス開始が現実味を帯びてきました。長距離輸送を中心に自動運転トラックの導入が加速すれば、ドライバーの仕事が大幅に減ることは必至。特に、タンクローリーのような特殊車両の運転は機械に代替されやすいとの見方もあり、将来への不安が募ります。

ただし、自動運転トラックが普及しても、燃料の補給や緊急時の対応、車両のメンテナンスといった業務は引き続き人の手を必要とするでしょう。危険物の輸送を担うタンクローリーは、運転以外の業務も多岐にわたります。システムやインフラ面の課題もあり、ドライバーの仕事がゼロになることはないと考えられます。とはいえ、需要の減少は避けられず、いかに付加価値を高めていくかが重要になります。

ドライバー不足の深刻化と長時間労働

全国のトラックドライバー不足は年々深刻さを増しており、2024年には約24万人が不足すると試算されています。少子高齢化に加え、若者のドライバー離れが主な要因。その背景にあるのが、過酷な労働環境です。

トラックドライバーの労働時間は平均して年間2,500時間を優に超えますが、それでも賃金水準は全産業平均を大きく下回ったまま。長時間拘束の割に収入が見合わないことから、なり手不足に拍車がかかっています。荷主の要求に応えるため、やむを得ず違法行為に手を染める運転手も後を絶ちません。

こうした状況の改善には、働き方改革関連法の徹底した履行が不可欠です。2024年4月には罰則付きの時間外労働の上限規制が運送業にも適用され、年960時間の残業時間の上限が設定されます。ドライバーの労働時間を適切に管理し、過労運転を防止するための体制整備が急がれます。

厳しい法規制とコンプライアンス対応の負担増

輸送の安全確保に向けた法規制が次々に強化される中、運送事業者の負担は増す一方です。2024年4月からは「自動車運送事業者の健康起因事故対策ガイドライン」が適用され、ドライバーへの健康診断の実施と事後措置が義務付けられます。脳・心臓疾患のリスクが高い運転手には、医師の判断で就業制限がかけられることになりました。

運送事業者は、ドライバーの体調管理や労務管理の徹底を迫られています。点呼時のアルコールチェックや睡眠時無呼吸症候群のスクリーニング検査なども欠かせません。病気がちなベテランドライバーの職場復帰支援や、健康起因事故を防ぐための教育・啓発活動にも力を入れる必要があるでしょう。

一方、運行管理者の選任基準も2024年4月から強化され、車両数に見合った専任の有資格者の配置が求められるようになりました。慢性的な人手不足の中、国家資格保持者の確保は容易ではありません。外部委託を活用するにしても、コスト増は避けられず、事業者の負担は小さくありません。

こうした法規制への対応と並行して、国が推進する「運輸安全マネジメント」にも注力しなければなりません。全社的な安全管理体制の構築が評価の対象となる中、形骸化を許さない本質的な取り組みが問われています。事故や法令違反を起こせば、国土交通省の特別監査や行政処分を受けるリスクもあり、コンプライアンス経営の重要性がこれまで以上に高まっているのです。

AIによるタンクローリーの自動運転化の現状と展望

自動車業界では、AIを活用した自動運転技術の開発が急ピッチで進められています。タンクローリーの自動運転化についても、近い将来の実現が期待されています。

自動運転のレベル分類と普及予測

自動運転技術は、その自動化のレベルに応じて以下の6段階に分類されています。

• レベル0：運転自動化なし
• レベル1：アクセル・ブレーキ・ステアリングのいずれかをシステムが支援
• レベル2：アクセル・ブレーキ・ステアリングを全てシステムが実施（部分的な自動運転）
• レベル3：限定条件下で、システムが全ての動的運転タスクを実施（条件付き自動運転）
• レベル4：限定領域内で、システムが全ての動的運転タスクを実施（高度な自動運転）
• レベル5：全ての条件下で、システムが全ての動的運転タスクを実施（完全自動運転）

現在、レベル1や2の運転支援システムを搭載した車両は広く普及していますが、レベル3以上の本格的な自動運転車はまだ市販されていません。ただし、2020年代後半にはレベル3やレベル4の自動運転車が次々と上市される見込みです。

政府の自動運転普及シナリオでは、2025年頃に高速道路でのトラック隊列走行が実現し、2030年頃には一般道でも自動運転トラックが実用化されるとしています。そして、2040年頃には物流の主役が自動運転車両にシフトし、ドライバー需要が激減すると予測しています。タンクローリーの自動運転化も、このシナリオに沿って進むことが期待されています。

タンクローリーの自動運転に求められる安全性と技術課題

タンクローリーは、ガソリンや軽油、LPガスなどの危険物を輸送する特殊な車両です。万が一事故が起これば、甚大な被害につながりかねません。したがって、タンクローリーの自動運転化には、極めて高い安全性が求められます。

事故のリスクを限りなくゼロに近づけるためには、インフラ面の整備が不可欠です。正確な位置情報を得るための高精度GPSや、3次元のデジタル地図などが必要不可欠です。また、車車間通信や遠隔監視を支える5Gなどの通信インフラの整備も重要になります。

加えて、危険物の特性に応じた安全対策も講じなければなりません。緊急時には、速やかに安全な場所に停車できる機能が必要です。万一、車両火災が発生した場合にも、初期消火できる装置の搭載が望まれます。

こうした安全性の担保と並行して、自動運転の実用化に向けた技術的な課題の解決も急務となっています。

タンクローリーに欠かせない荷役作業の自動化は、大きな難関の1つです。ホースの着脱や、バルブの開閉などを自動で行うには、ロボット工学の応用が必要不可欠です。また、液体貨物特有の課題として、変形タンクの液面計測やスロッシング（液面揺動）対策も求められます。

自動運転車両と受入施設との連携を、いかにシームレスに行うかも重要なポイントです。効率的な荷卸しのためには、双方の情報共有と最適な動線の確保が欠かせません。

さらに、サイバー空間を介した自動運転システムには、ハッキングなどのサイバー攻撃への備えも必要です。安全運転を脅かす悪意ある攻撃から、自動運転車を守る対策が求められています。

完全自動運転の実現には法整備も必要

技術的な課題とともに、自動運転の実用化には法制度の整備も重要な鍵を握ります。

2020年4月には、道路運送車両法と道路交通法の一部が改正されました。レベル3以上の自動運転システムについて、国が型式指定し、使用を許可する制度が創設されたのです。また、自動運転車の事故時における刑事責任や損害賠償責任の所在も明確化されました。事故データの記録と保存も義務付けられています。

2022年4月には、自動運行装置の保安基準も策定されました。自動運転システムの安全性を担保する重要な指針となります。今後、運用面でのルール作りが進むことで、自動運転の実用化に向けた環境が一層整うことが期待されます。

タンクローリーの完全自動運転の実現には、車両の安全性はもちろん、事故時の対応を含めた社会受容性の醸成も欠かせません。官民一体となった取り組みが求められる大きなチャレンジなのです。

ドライバーとして市場価値を高める3つの戦略

自動運転車の登場で、ドライバーの仕事が奪われるのではないかと不安視する向きもあります。しかし、AIには真似できない人間ドライバーならではの強みも数多くあるのです。それを十分に認識し、磨きをかけることこそが、プロドライバーとしての市場価値を高める上で欠かせません。ここでは、その戦略を3つ挙げてみましょう。

自動運転にはない人間ドライバーの強みを訴求

人間のドライバーは、荷主や受荷主とのコミュニケーションを通じて、ニーズを的確に把握し、臨機応変に対応できる大きな強みを持っています。例えば、納品先の受入態勢を見極めて、スムーズな荷卸しを提案したり、渋滞情報を収集して最適な迂回ルートを選択したりと、状況に応じた柔軟な判断が可能です。

また、突発的なトラブルが発生した際にも、その原因を探り、現場の状況に合わせて最善の対処方法を考えるのは人間ドライバーの大切な役割です。タンクローリーのような特殊車両では、ホースの脱着時のトラブルや、化学品の漏洩事故など、マニュアル通りでは対応しきれない事態も起こり得ます。経験に基づく臨機応変の対応力は、AIの追随を許さない人間ドライバーの強みと言えるでしょう。

加えて、日々の車両点検とメンテナンスも、ドライバーに欠かせない重要な役割です。タイヤの摩耗状態やブレーキの利き具合など、五感を頼りに点検を行い、異変の兆候をいち早く察知する。そうした地道な努力の積み重ねが、車両トラブルの未然防止につながっているのです。目的地までの安全運行を支えるのは、ドライバーの責任感と長年の経験知なのです。

運行管理や車両メンテナンスのスキルもアピール

ドライバーの仕事は、単に車を運転するだけではありません。運行管理や車両メンテナンスのスキルも、プロドライバーとしての付加価値を高める重要な要素です。

運行管理では、デジタル式運行記録計などのITツールを駆使し、日々の運行データを正確に記録・分析することが求められます。そのデータを基に、安全運転の徹底と業務の効率化を図ることが運行管理者の腕の見せ所です。日常点検の確実な実施と異常の早期発見も、運行管理上の重要なポイントと言えるでしょう。

車両メンテナンスの領域でも、ドライバーの専門的な知識とスキルが大いに役立ちます。故障の原因を特定し、現場で応急処置を施すトラブルシューティングの能力は、運行ダウンタイムの最小化に直結します。日常的な予防整備はもちろん、定期点検や車検整備の管理も、ドライバーに任される大切な役割です。

物流のマネジメント全般を担えるプランナーを目指す

ドライバー業務の延長線上には、物流のマネジメント全般を担うプランナーとしてのキャリアも見えてきます。単に車を運転するだけでなく、荷主の物流戦略の実現に寄与する提案型ドライバーへと脱皮することで、より高い市場価値が期待できるのです。

そのためには、サプライチェーン全体の仕組みを理解し、輸配送ルートの設計・最適化を進める企画力が問われます。自社便とチャーター便の使い分けや、鉄道・海運へのモーダルシフト提案なども視野に入れつつ、トータルの物流コスト削減につなげる戦略的な発想が重要になるでしょう。

倉庫内の荷役作業や検品作業の効率化、在庫管理や需要予測の高度化など、物流の川上から川下までを俯瞰し、改善施策を立案・実行する。そんな物流プランナーへとキャリアを進化させることも、これからのプロドライバーに期待される道筋の1つです。

こちらの記事でも詳しく解説しているので、参考にしてください。

2024年6月19日 タンクローリードライバーに必須の免許と資格を徹底解説｜仕事の幅が広がる資格も紹介

現在行われている官民連携の取り組み

タンクローリー業界が直面する諸課題を解決し、持続的な発展を遂げるためには、官民が連携した多角的な取り組みが不可欠です。ここでは、喫緊の課題であるドライバー不足対策と、中長期を見据えた自動運転時代への備えを中心に、官民連携の取り組みを探ってみましょう。

ドライバー不足を技術とオペレーションで改善

ドライバー不足は、運送業界全体の最重要課題の1つですが、特にタンクローリーのような特殊車両では、なり手不足に一層拍車がかかっています。この難局を打開するには、短期と中長期、双方の時間軸で対策を講じる必要があります。

短期的には、ドライバーの採用対象を拡げる工夫が求められます。女性ドライバーの活躍推進はもちろん、60歳以上の高齢者の雇用促進も選択肢の1つです。政府の後押しを受けて、外国人ドライバーの受け入れ拡大も始まっています。加えて、2022年4月に創設された準中型免許の普及を図ることで、若者の新規参入を促すことも可能でしょう。

一方、中長期的な視点では、ドライバーの労働環境改善と業務の効率化が鍵を握ります。自動運転技術や隊列走行の実用化は、大きな省人化効果が期待できます。政府の支援を受けつつ、こうした新技術の社会実装を加速することが肝要です。 また、ドライバー職の魅力向上に向けて、賃金水準の改善と働きやすい環境の整備も急務です。ドライバー専用の賃貸住宅の確保など、生活面でのサポート強化も検討に値するでしょう。官民が協調して物流業界のイメージアップに取り組み、担い手の裾野を拡げる努力も必要です。異業種からの人材還流を促す再教育プログラムの提供など、新たな人材供給ルートの開拓も大切な視点と言えます。

政府主導の「働き方改革」で安心して働ける環境を

ドライバー不足の解消には、「働き方改革」の着実な推進が欠かせません。とりわけ、長時間労働の是正と賃金水準の適正化は、運送業界の生命線とも言える重要課題です。 長時間労働の背景には、荷主都合による手待ち時間の長さや、深夜・早朝の受付対応など、非効率なオペレーションの存在があります。

国土交通省は、トラックドライバーの労働時間短縮に向けたガイドラインを策定し、荷主に対して運賃・料金の適正化や手待ち時間の削減を要請しています。行政の旗振りの下、サプライチェーン全体で物流の効率化を進める気運を高めなければなりません。 そのためには、関係者一人ひとりの意識改革が何より大切です。

ドライバーの過重労働を当然視するような風潮を払拭し、働きやすい職場環境を整備する。そのための原動力となるのは、経営層のリーダーシップです。テレマティクスを活用した勤怠管理の高度化など、客観的なデータに基づく労務管理の適正化も求められます。 こうした地道な取り組みの積み重ねこそが、ドライバーが安心して働き続けられる未来への第一歩となるのです。行政と事業者が一体となって「働き方改革」を前へ進め、持続可能な物流の実現を目指したいものです。

自動運転との共存を見据えたドライバー教育を拡充

自動運転技術の発展は、タンクローリー業界の未来を大きく変える可能性を秘めています。人間ドライバーの仕事が奪われるのではないかという懸念もありますが、むしろ自動運転車と上手に協調しながら、新たな価値を生み出すチャンスととらえるべきでしょう。

そのためには、ドライバー教育の在り方を再考することが肝要です。自動運転車との協調作業をいかにスムーズに行うか。自動運転システムの特性と限界を理解し、非常時の対応力を身につける。こうしたスキルの習得が、これからのドライバーには欠かせません。

加えて、ドライバーの仕事を「運転」だけに限定せず、カスタマーサービスや物流マネジメントの側面まで拡げる視点も重要です。人間だからこそ発揮できる付加価値を追求し、自動運転時代を生き抜く独自の強みを磨く。官民連携でそんな教育プログラムを推進することが、タンクローリー業界の未来を切り拓く鍵となるはずです。

まとめ

タンクローリードライバーを取り巻く環境は、大きな変革期を迎えています。AIやIoTの進化は、私たちの仕事の在り方を根底から変えるインパクトを秘めています。自動運転技術の発展は脅威ととらえるよりも、むしろチャンスと受け止めるべきでしょう。 技術革新の波に飲み込まれるのではなく、それを味方につけながら、新たな価値を生み出していく。それが、これからのプロドライバーに求められる生き残り戦略だと言えます。運転スキルだけでなく、高度な車両管理能力や物流マネジメント力を身につけ、自動運転にはない人間ドライバーならではの強みを発揮する。そこにこそ、私たちの存在価値があるのです。 もちろん、それには常に学び続ける謙虚な姿勢が欠かせません。AIに代替されない能力を徹底的に磨き、時代の変化に適応していく柔軟性を持つこと。そして何より、プロドライバーとしての矜持を胸に、安全輸送の使命を全うする覚悟を持ち続けることが肝要です。 新時代を切り拓くイノベーターとして。物流インフラを支える誇り高きプロフェッショナルとして。タンクローリードライバーの未来は、私たち自身の手で創り上げていくものなのです。さあ、新たな旅路の始まりです。