霊柩車ドライバーに必要な免許と5つの心得｜普通免許で運転は可能？

霊柩車ドライバーは、故人とそのご遺族に寄り添い、尊厳ある最後の旅路をサポートする重要な役割を担っています。本記事では、霊柩車ドライバーに必要な免許の種類と取得方法、そして務めるに当たって心掛けるべき5つの心構えについて詳しく解説します。事故トラブル時の対処法やキャリアパスについても触れ、プロのドライバーを目指す方々に役立つ情報をお届けします。

霊柩車とは

霊柩車とは、故人のご遺体を葬儀場から火葬場まで搬送するために特別に設計された車両のことを指します。一般の自動車とは異なり、ご遺体を安置するための十分なスペースと、安全に固定するための装置が備わっているのが特徴です。

霊柩車は主に3つのタイプに分けられます。

1つ目は洋型霊柩車で、高級外車やトヨタ・センチュリーなどの国産高級車をベースに改造されたものです。内装は非常に豪華で、故人を厳かに送るにふさわしい造りになっています。

2つ目は宮型霊柩車と呼ばれる、屋根付きで華やかな彫刻や装飾が施された伝統的な日本式の霊柩車です。しかし近年はその需要が減少傾向にあります。

3つ目はバス型霊柩車で、マイクロバスを霊柩車として改造したものです。ご遺体と一緒にご親族なども同乗できるのが特徴です。

法律上、霊柩車は、お金を得てご遺体を搬送する車両と定義されています。ご遺体を安置するスペースは、長さ1.8m以上、幅0.5m以上、高さ0.5m以上と定められており、棺をしっかりと固定できる装置の設置も義務付けられています。

霊柩車と似た車両に寝台車がありますが、用途が異なります。霊柩車が主に葬儀で利用され、棺の出し入れがしやすい構造になっているのに対し、寝台車は葬儀以外の搬送に用いられ、ストレッチャーの乗せ降ろしに適した造りになっています。

霊柩車を新たに導入する際は架装と呼ばれる改造が必要です。車内にストレッチャーを設置し、必要な検査に合格するための構造に仕立て上げます。霊柩車は特殊な車両ですが、厳格な基準をクリアし、故人を敬意を持って最後の旅路へ送り出す大切な役割を担っているのです。

霊柩車の運転に免許を車種別に解説

霊柩車を運転するために必要な免許は、車種によって異なります。ここでは、代表的な霊柩車の車種別に、必要な免許について解説します。

小型霊柩車の運転に必要な免許

小型霊柩車とは、車体の大きさが軽自動車の区分に収まる霊柩車のことを指します。具体的には、全長3.4m以下、全幅1.48m以下、全高2.0m以下、エンジン総排気量660cc以下の車両が該当します。

小型霊柩車を運転するには、普通自動車免許か中型自動車免許が必要です。ただし、小型霊柩車の中でも特に小さいタイプは、軽自動車免許でも運転できる場合があります。

中型霊柩車の運転に必要な免許

中型霊柩車とは、車体総重量が5トンを超えない霊柩車のことです。一般的な乗用車ベースの霊柩車や、小型のトラックを改造した霊柩車などが該当します。

中型霊柩車を運転するためには、中型自動車免許以上が必要です。ただし、車体総重量が7.5トン未満であれば、準中型自動車免許でも運転が可能です。

大型霊柩車の運転に必要な免許

大型霊柩車は、車体総重量が5トンを超える霊柩車を指します。大型トラックやバスをベースに改造された霊柩車が、この区分に入ります。

大型霊柩車の運転には、大型自動車免許が必須です。さらに、トレーラータイプの霊柩車を牽引する場合は、大型特殊自動車免許の取得が必要になります。

以上の免許区分は、霊柩車の車体サイズと総重量に基づいたものですが、運転する上での注意点は他にもあります。例えばバス型霊柩車の場合、ご遺体と共にご遺族も同乗することがあります。

ただし通常は、乗客から料金を受け取らないため、第二種免許は不要とされています。とはいえ、利用形態によっては旅客運送事業の許可と第二種免許が求められるケースもあるので、注意が必要です。

また霊柩車は、緑ナンバーでの登録が原則です。万が一、白ナンバーの車両を霊柩車として使用する場合は、まず構造変更検査に合格し、霊きゅう用の緊急車両として認定を受ける必要があります。その上で、所有者の名義変更手続きを行い、晴れて緑ナンバーの霊柩車になります。

霊柩車の運転に必要な免許の取得条件

霊柩車の運転に必要な免許の種類はわかったところで、次はその取得条件について詳しく見ていきましょう。免許の種類によって、必要な年齢や経験、教習時間などが異なります。

各種免許の取得に必要な年齢と経験

まず、霊柩車の運転に最も基本となる普通自動車免許ですが、取得可能な年齢は18歳以上です。上限年齢の制限はありません。

中型自動車免許の場合は、普通免許を取得してから運転経験が通算して2年以上必要になります。大型自動車免許に至っては、中型免許の取得後、さらに運転経験が3年以上求められます。

このように、免許の種類が上がるほど、年齢と経験の条件が厳しくなっていく傾向にあります。

免許取得に必要な講習と試験の概要

次に、各種免許を取得するために必要な講習と試験の概要を見てみましょう。

普通自動車免許の場合、学科教習が26時間、技能教習がMT車なら34時間、AT車なら31時間と定められています。中型自動車免許は、学科教習が15時間以上、技能教習が7時間以上必要です。

大型自動車免許になると、学科教習は26時間以上、技能教習は14時間以上が義務付けられています。

これらの教習を修了後、卒業検定と仮免許許可証明の交付を経て、本免許試験にチャレンジします。筆記試験と実技試験の両方に合格すれば、晴れて免許証が交付されます。

一般的な免許取得までの所要期間

それでは、免許の取得にはどのくらいの期間が必要なのでしょうか。

普通自動車免許の場合、教習所に通いながら免許を取得する場合は、1〜3ヶ月程度が一般的です。費用は30万円前後が相場と言えるでしょう。

中型自動車免許は、教習期間が2週間〜1ヶ月ほどで、費用は15〜20万円が目安です。

大型自動車免許ともなれば、1〜2ヶ月の教習期間を要し、費用は30〜40万円ほどかかります。

免許取得の所要期間と費用は、教習所の混雑具合などによっても変動しますが、およそ以上のような傾向にあると言えるでしょう。

最後に普通自動車免許について注意点を1つ。免許取得時には、AT限定免許か否かを選択できます。AT限定の場合、MT車の運転はできません。霊柩車の車種選択肢が狭まるため、可能であればMT免許の取得をおすすめします。トラブル時の代替車手配などの際にも、MT免許があれば選択肢が広がります。

下記の記事でも詳しく解説してますので、参考にしてみてください。

2024年6月19日 大型免許取得が難しい5つの理由｜実際の取得条件・合格率・費用を解説

霊柩車ドライバーに求められる5つの心構え

霊柩車ドライバーは、単なる運転手ではありません。故人とそのご遺族に寄り添い、尊厳ある最後の旅路をサポートする、重要な役割を担っています。そのためには、以下の5つの心構えが不可欠と言えるでしょう。

1. 安全運転の徹底

霊柩車ドライバーの最優先事項は、何と言っても安全運転です。故人のご遺体を預かるという責任の重大さを常に自覚し、事故を起こさないよう細心の注意を払わなければなりません。

急発進、急ハンドル、急ブレーキは厳禁です。路面の状況や天候に合わせ、スムーズで安定した運転を心がけましょう。ゆったりとした走行が、ご遺族の心を和ませることにもつながります。

2. 故人とご遺族への礼儀と配慮

霊柩車ドライバーは、ご遺族と直接接する機会も多くあります。最愛の人を亡くしたばかりのご遺族は、計り知れない悲しみの中にいます。その心情に寄り添い、慎重な言動を心がける必要があります。

例えば「絶好の天気ですね」「気持ちの良い風です」など、明るく振る舞うことが不謹慎に思えるような言葉は避けましょう。「重ねて」「追う」「また」など、別れを連想させるような言葉の使用も控えるべきです。

3. 車内の整理整頓と衛生管理

霊柩車の車内、特に棺を安置する場所は、常に清潔に保たなければなりません。乱雑な印象は、ご遺族の心を乱すことにもなりかねません。

また昨今は、感染症対策の重要性も高まっています。車内の消毒や除菌を徹底し、ご遺族と故人の安全を守るのもドライバーの務めです。備品の定期的な交換も忘れずに。

4. 葬儀の流れと儀式的作法の習得

通夜、葬儀、火葬など、一連の葬儀の流れを把握しておくことも大切です。宗教や宗派によって作法が異なることもあるため、それぞれの儀式の意味を理解し、臨機応変に対応できるよう準備しておきましょう。

ご遺族から葬儀に関する質問を受けることもあります。一通りの知識を身につけておけば、ご遺族の不安を和らげる一助にもなるはずです。

5. 自身のメンタルヘルスケア

霊柩車ドライバーは、人の死と常に向き合う職業です。故人やご遺族の悲しみに接していると、知らず知らずのうちにストレスを溜め込んでしまうことがあります。

疲れを感じたら休養を取る、信頼できる人に悩みを打ち明ける、趣味の時間を作るなど、ストレス発散の方法を見つけておくことが大切です。場合によっては、専門家のカウンセリングを受けることも検討しましょう。

自分自身の心と体を健康に保つことが、結果的にご遺族への最高のサービスにつながります。プロのドライバーとして、自己管理も怠りなくおこないたいものです。

事故トラブル発生時の対応

霊柩車の運転中に事故やトラブルが発生した場合、ドライバーは冷静を保ち、迅速かつ適切な対応を取ることが求められます。万が一の事態に備え、行動手順を予めマニュアル化しておくことが重要です。

事故発生時の初動対応マニュアル

事故が起きてしまった場合、ドライバーがまず行うべきことは、ご遺体と同乗者の安全確認です。皆様のケガの有無や意識状態を速やかにチェックしましょう。

その上で、車外に出る際は後続車両に細心の注意を払います。二次事故の危険性が高い状況では、車内にとどまることも検討してください。

救急車や警察への連絡は早めに行いましょう。同時に、会社や上司にも第一報を入れます。事故の状況や損害の程度を、できる限り正確に伝えることが大切です。

相手方ドライバーの氏名、連絡先、車両ナンバーなどの情報収集も忘れずに。目撃者がいる場合は、お名前と連絡先を聴取しておくと良いでしょう。

事故現場の写真撮影も重要なタスクです。道路の状況や車の損傷状態を記録しておけば、のちのち役立つはずです。
怪我人がいる場合は、安全が確保できる範囲で救護措置を施します。ただし、無理は禁物。自らが危険に巻き込まれることのないよう注意が必要です。

警察官が到着したら、指示に従って冷静に事情聴取に応じましょう。事実を率直に述べることが肝要です。

代車手配など、葬儀に影響を与えない工夫

霊柩車の事故は、ご遺族にとって二重の悲しみとなります。葬儀の日程に影響が出ないよう、会社としてもできる限りのサポートをするべきでしょう。

まずは代替の霊柩車をすぐに手配できるよう、日頃から社内の体制を整えておくことが大切です。事故の程度によっては、他社への応援要請も視野に入れておきましょう。

葬儀のスケジュールに遅れが出そうな場合は、早めにご遺族と葬儀社に連絡を入れるのが鉄則です。ご遺体の搬送が遅れる事情を丁重に説明し、お詫びの言葉を述べます。

葬儀の手配変更など、臨機応変な対応が求められるケースも出てくるでしょう。社内の連携を密にし、ご遺族の要望にできる限り沿えるよう尽力したいものです。

事故やトラブルは、起きてからでは遅いのです。日頃からの備えと、冷静沈着な対応力が、プロのドライバーには問われるのです。

霊柩車ドライバーのキャリアパス

霊柩車ドライバーは、単なる運転手ではなく、葬儀サービスのプロフェッショナルとして活躍できる職業です。ここでは、霊柩車ドライバーのキャリアパスについて、需要の高まりと専門性によるやりがい、スキルアップの方法の観点から見ていきます。

需要の高まりと専門性によるやりがい

日本の少子高齢化が進む中、葬儀の需要は今後ますます高まっていくことが予想されます。それに伴い、霊柩車ドライバーの需要も増加の一途をたどるでしょう。仕事に不足することはなさそうです。

霊柩車ドライバーの仕事は、ただご遺体を運ぶだけではありません。故人を慈しみ、遺族の心情に寄り添いながら、安らかな旅立ちをサポートする。そこには、一般の運転手とは一線を画す専門性が求められます。

ご遺族から感謝のお言葉をいただいたとき、自分の仕事に大きなやりがいを感じられるはずです。プロフェッショナルとしてのスキルと人間性が評価される、そんな喜びを味わえる仕事だと言えます。

スキルアップのための研修・資格取得

霊柩車ドライバーとして採用されたら、まずは葬儀のマナーや知識を学ぶことから始まります。会社によっては、社内研修で集中的に学べる機会が用意されています。

葬祭ディレクター技能審査などの専門資格の取得を奨励している会社もあります。資格取得のための勉強は大変かもしれませんが、自らのスキルアップに直結する取り組みと言えるでしょう。

先輩ドライバーから直接指導を受けられる機会も貴重です。経験豊富なベテランの仕事ぶりを間近で見て、コツを盗む。それが何より大切な学びの場になります。

定期的な安全運転講習も欠かせません。事故防止のための知識とスキルを磨き、お客様の安全を何より優先する姿勢を養います。

将来的には、タクシーやバスなど旅客輸送サービスへの転職や、葬儀社の別部門へのジョブチェンジといったキャリアチェンジも考えられます。独立開業して個人で霊柩車サービスを提供する道もあるでしょう。

霊柩車ドライバーの仕事は、単なる通過点ではありません。プロとしての矜持を持ち、知識とスキルを磨き続けることで、さまざまなキャリアパスが開けていくのです。

まとめ

本記事では、霊柩車ドライバーに必要な免許と心構えについて、詳しく解説してきました。

霊柩車ドライバーの需要は、少子高齢化の進行と共に高まっていくことでしょう。専門性の高さゆえのやりがいは、他の職業には代え難いものがあります。社内研修や資格取得など、自らのスキルアップの機会も豊富に用意されています。

霊柩車ドライバーの仕事は、単に車を運転するだけではありません。故人への敬意と、ご遺族への慈しみの心を持って、尊厳ある最後の旅路に寄り添う。そこには崇高な使命が託されているのです。

本記事が、霊柩車ドライバーを志す皆様にとって、仕事の重要性と奥深さを感じ取っていただく一助となれば幸いです。プロフェッショナルとしての誇りと責任を胸に、安全運転と誠実な対応を貫いていってください。

皆様のご活躍を、心より応援申し上げます。